この記事ではFXの「歩み値(あゆみね)」、英語でいう「タイムアンドセールス(Time & Sales)」について解説していきます。
1. 歩み値(タイムアンドセールス)とは?
一言でいうと、**「市場で成立した個々の取引(約定)の履歴を、時系列でリアルタイムに表示したもの」**です。
チャートが一定期間(1分、5分など)の価格情報を集約してローソク足などで表示するのに対し、歩み値は**「誰が、いつ、いくらで、どれくらいの量を売買したか」**という取引の生データそのものです。
映画に例えるなら、
- チャート(ローソク足):完成した映画のフィルム
- 歩み値:映画を構成する一つ一つのカットや、撮影の全記録
と言えるでしょう。市場の裏側で起きていることを、より細かく覗き見るためのツールです。
2. 歩み値に表示される主な情報
通常、以下の情報が含まれています。
項目 | 日本語 | 内容 |
Time | 時刻 | 取引が成立した時間(ミリ秒単位で表示されることも) |
Price | 価格 | 約定した価格 |
Volume/Size | 数量 | 取引された量(FXではLot数で表示されることが多い) |
Direction | 売買の方向 | 買い(Buy/Bid)か売り(Sell/Ask)かを示す色や記号 |
表示例:
15:30:01.125 150.105 0.50 Lot (買い) <-- 緑色で表示
15:30:01.350 150.104 1.20 Lot (売り) <-- 赤色で表示
15:30:01.600 150.105 2.00 Lot (買い) <-- 緑色で表示
15:30:01.875 150.105 0.80 Lot (買い) <-- 緑色で表示
※売買の方向は、直前の価格より上がったか下がったかで色分けされることが多いです。
3. なぜ歩み値を見るのか?そのメリット
歩み値を見ることで、チャートだけでは分からない市場の”勢い”や”圧力”を読み取ることができます。
① 市場の勢い(モメンタム)を読む
- 買いの勢いが強い時:緑色(買い)の約定が連続し、しかも数量が大きい取引が続く。価格がジリジリと上がっていく様子がリアルタイムでわかる。
- 売りの勢いが強い時:赤色(売り)の約定が連続し、価格が押し下げられていくのがわかる。
② 大口注文の察知
- 普段は0.1 Lotや0.5 Lotの取引が多い中で、突然50 Lotや100 Lotといった桁違いに大きな取引が流れてきたら、それは機関投資家などの大口プレーヤーが市場に参加したサインかもしれません。
- その大口注文が買いなのか売りなのか、そしてその後の価格の動きを見ることで、市場の方向性を予測するヒントになります。
③ 特定の価格帯での攻防を把握する
- 重要なサポートラインやレジスタンスライン付近で、**「価格が上がろうとすると、すかさず大きな売り注文が出てくる」「価格が下がろうとすると、大きな買い注文が支える」**といった攻防が、歩み値を見ると手に取るようにわかります。
- この攻防の結果、どちらが勝ったか(=ブレイクしたか、反発したか)を確認するのに役立ちます。
4. 【FXにおける最も重要な注意点】
ここが株式投資の歩み値と決定的に違う点で、絶対に理解しておく必要があります。
FXは「相対取引(OTC市場)」であり、株式市場のような中央取引所が存在しません。
これはどういうことかというと、
- 株式市場:すべての注文は東京証券取引所のような「中央取引所」に集められます。そのため、そこで見られる歩み値は、市場全体の取引記録です。
- FX市場:あなたが使っているFX会社の歩み値は、**「そのFX会社(およびその提携リクイディティプロバイダー)内で成立した取引の記録」**に過ぎません。
つまり、**FXの歩み値は市場全体の取引のごく一部を切り取った「サンプルデータ」**だということです。A社の歩み値とB社の歩み値は、内容は全く異なります。
このため、FXの歩み値だけで「市場のすべてがこう動いている」と判断するのは非常に危険です。
5. 歩み値の実践的な使い方
上記の注意点を踏まえた上で、スキャルピングやデイトレードで以下のように活用します。
- テクニカル分析が先:まず、チャートでサポート/レジスタンスライン、トレンドラインなどを引き、エントリーや決済のシナリオを立てます。
- エントリーの最終確認:価格が重要なラインに到達した際、歩み値を見て勢いを確認します。
- ブレイクアウト狙い:レジスタンスラインで買いの勢いが衰えず、大きな買い注文が連続して入るのを確認してエントリー。
- 反発狙い:サポートラインで大きな売りが出ても、それを上回る買い注文が次々と入って価格が支えられるのを確認してエントリー。
- 利食いや損切りの判断:
- 含み益が出ている状況で、反対方向の大きな注文が連続し始めたら、勢いが反転する兆候とみて利食いを検討します。
- 含み損が出ている方向への勢いが止まらない場合、早めの損切りを判断します。
結論として、FXの歩み値は「単体で使う魔法のツール」ではなく、「チャート分析と組み合わせて、取引の精度を少し上げるための補助ツール」と考えるのが最も賢明です。
まとめ
- 歩み値とは:個々の取引記録を時系列で表示した生データ。
- わかること:市場のリアルタイムな勢い、大口注文、価格の攻防。
- 最大の注意点:FX市場は相対取引のため、見ている歩み値は市場全体のデータではなく、あくまで利用しているFX会社のサンプルデータであること。
- 使い方:チャート分析を主軸とし、エントリーや決済のタイミングを計る際の補助情報として活用する。
多くのFXプラットフォーム(特に上級者向けのもの)で表示できますので、ご自身の取引環境で使えるか確認し、まずはデモトレードなどでその動きに慣れてみることをお勧めします。
歩み値(タイムアンドセールス)の確認方法は?
まず大前提として、すべてのFX会社の取引ツールで歩み値が見られるわけではありません。 特に初心者向けのシンプルなツールでは提供されていないことが多いです。
主に以下のプラットフォームやツールで確認できます。
1. MT4 / MT5 (MetaTrader 4 / 5)
世界で最も広く使われている取引プラットフォームですが、標準機能には、株式市場で見るような本格的な「歩み値(出来高付きの約定履歴)」は搭載されていません。
しかし、それに近い機能や、カスタムインジケーターを追加することで表示させることが可能です。
方法①:気配値表示の「ティックチャート」機能を使う
これは厳密には歩み値ではありませんが、最も手軽に価格の動きの生データを見る方法です。
- 操作手順:
- MT4/MT5の画面左側にある「気配値表示」ウィンドウを見ます。(もし表示されていなければ、メニューの「表示」→「気配値表示」をクリック)
- 下部にある「ティックチャート」というタブをクリックします。
- すると、選択した通貨ペアの価格が更新されるたびに、チャートがリアルタイムで描画されていきます。
- 特徴:
- 価格がどの瞬間にどちらに動いたか(BidとAskの動き)はわかります。
- 取引数量(Volume)は表示されないため、大口注文の判断はできません。あくまで価格の動きの速さや頻度を見るためのものです。
方法②:カスタムインジケーター(外部ツール)を導入する
有志や業者が開発した「歩み値表示インジケーター」をMT4/MT5に追加する方法です。これが最も本格的な方法です。
- 入手方法:
- インターネットで「MT4 歩み値 インジケーター」や「MT5 Time and Sales indicator」などと検索すると、無料または有料のインジケーターが見つかります。
- 有名なものには「Geki-Ayumi」などがあります。
- 導入手順(一般的):
- インジケーターファイル(.mq4, .ex4, .mq5, .ex5)をダウンロードします。
- MT4/MT5のメニュー「ファイル」→「データフォルダを開く」をクリックします。
- 「MQL4」(または「MQL5」)フォルダを開き、その中の「Indicators」フォルダにダウンロードしたファイルを入れます。
- MT4/MT5を再起動するか、ナビゲーターウィンドウのインジケーターリストで右クリック→「更新」をします。
- リストに追加されたインジケーターを、チャート上にドラッグ&ドロップすれば表示されます。
2. FX会社独自の高機能取引ツール
日本のFX会社の中には、プロ仕様の高性能な取引ツールを提供しており、その機能の一部として歩み値が搭載されている場合があります。
- 例(提供している可能性のあるFX会社):
- ヒロセ通商(LION FX):「.NET4版」や「C2」といった取引ツールでティック履歴が見られることがあります。
- SBI FXトレード:リッチクライアント版の取引ツール。
- 外為どっとコム:高機能版の取引ツール「G.com」シリーズ。
- OANDA Japan:「fxTrade」プラットフォーム。
- 確認方法:
- ご自身が利用しているFX会社のウェブサイトや取引マニュアルを確認します。
- 「歩み値」「タイムアンドセールス」「ティック履歴」「約定履歴」といった名称の機能がないか探します。
- ツールの「表示設定」や「レイアウト設定」からウィンドウを追加する形式が多いです。
3. TradingView(トレーディングビュー)
非常に人気のある高機能チャートツールですが、FXの歩み値については注意が必要です。
- FX(外国為替)の場合:
- FXは中央取引所がないOTC市場のため、TradingViewは基本的にFXの歩み値(Time & Sales)を提供していません。
- ただし、OANDAやFOREX.comなど、TradingViewと連携している一部のブローカーのデータソースを選択している場合に限り、そのブローカー内の歩み値が表示されることがあります。
- 株式や仮想通貨、先物の場合:
- これらは中央取引所があるため、TradingViewで歩み値を見ることができます。
- 操作手順: 画面右側のパネルにある「タイムアンドセールス」のアイコン(時計とドルマークのようなアイコン)をクリックすると表示されます。
まとめ:自分の環境でどう探すか
- 【STEP1】まずは自分の取引ツールを確認
- 今お使いのFX会社の取引ツールを開き、メニューや設定項目に「歩み値」「タイムアンドセールス」「ティック」といった単語がないか探してみてください。
- 【STEP2】MT4/MT5ならインジケーターを探す
- もしMT4/MT5をお使いで標準機能になければ、ウェブでカスタムインジケーターを探すのが最も現実的な方法です。
- 【STEP3】FX会社を乗り換える
- どうしても歩み値を使ったトレードがしたい場合、上記で例に挙げたような高機能ツールを提供しているFX会社に口座を開設するのも一つの選択肢です。
いずれの方法でも、繰り返しになりますが**「表示されるのは、あくまでそのFX会社(ブローカー)内の取引データである」**という点を忘れずに、チャート分析の補助として活用してください。