この記事ではFXの「フェアレート」について解説していきます。
フェアレートとは?
FXフェアレート(Fair Rate)とは、一言で言うと**「手数料や金融機関の利益(スプレッド)が含まれていない、市場の基準となる公正な為替レート」**のことです。
これは、銀行や大手金融機関が互いに取引する**「インターバンク市場」**で実際に成立しているレートを指します。一般の私たちが目にするFX会社のレートや、銀行窓口のレートとは異なります。
フェアレートの主な特徴
- インターバンク市場のレートが基準
フェアレートは、世界中の巨大な金融機関が24時間取引を行っている「インターバンク市場」の実勢価格です。これが為替レートの「原価」や「卸値」のようなものだと考えてください。 - スプレッドや手数料を含まない
私たちがFX取引をしたり、外貨両替をしたりする際のレートには、金融機関の利益となるスプレッド(売値と買値の差)や手数料が上乗せされています。フェアレートは、こうした上乗せ分が一切ない、純粋な市場価格です。- フェアレート(仲値): 1ドル = 150.00円
- 顧客が買うレート(Ask/買値): 1ドル = 150.02円
- 顧客が売るレート(Bid/売値): 1ドル = 149.98円
- あくまで「基準」であり、直接取引はできない
重要な点として、個人投資家や一般企業がこのフェアレートで直接取引することは通常できません。これはあくまで価格の妥当性を評価するための「物差し」や「ベンチマーク」として使われます。
フェアレートと私たちが目にするレートの違い
項目 | FX フェアレート (Fair Rate) | 顧客向けレート (Customer Rate) |
レートの基準 | インターバンク市場の実勢価格 | フェアレートにスプレッドや手数料を上乗せ |
スプレッド | なし(売値と買値がほぼ同じ) | あり(売値と買値に差がある) |
利用目的 | 価格評価、会計処理、監査の基準 | 実際の取引、外貨両替 |
利用できる人 | 主に金融機関同士(取引はするが基準として利用) | 個人投資家、一般企業、旅行者など |
なぜフェアレートが重要なのか?
では、なぜ直接取引できないフェアレートを知ることが重要なのでしょうか。
- 企業の会計・財務処理のため
企業が海外資産や負債を自国通貨に換算して評価する際(期末の時価評価など)、この公正な市場価格であるフェアレート(またはそれに準ずるTTM: 電信送金仲値)を使用します。 - 取引コストの評価のため
機関投資家や企業が、利用している金融機関から提示されたレートが「適正かどうか」を判断するために使います。フェアレートと実際に取引したレートを比較することで、どれだけのコスト(スプレッド)を支払ったかを正確に把握できます。(これをTCA: 取引コスト分析と呼びます) - 個人投資家がFX会社を選ぶ基準として
個人投資家も、フェアレートの考え方を理解することで、「このFX会社のスプレッドは広いのか、狭いのか」を客観的に判断する材料になります。スプレッドが狭いほど、取引コストが低い有利な業者と言えます。 - 法務・監査のため
遺産相続や訴訟などで外国資産の価値を算定する必要がある場合、客観的で公正な価格としてフェアレートが参照されることがあります。
まとめ
- FXフェアレートは、手数料やスプレッドが乗っていない**「市場の公正な基準価格」**。
- 銀行などが取引するインターバンク市場のレートが元になっている。
- 個人や一般企業がこのレートで直接取引することはできない。
- 企業の会計処理や、自分が支払っている取引コストが適正かを判断するための重要な「物差し」となる。
このフェアレートの概念を理解しておくと、為替レートの裏側にある仕組みがより深くわかり、FX取引や外貨関連のサービスを賢く利用する助けになります。
フェアレートの参照方法
結論から言うと、「これが公式のフェアレートです」と発表している単一のウェブサイトは存在しません。フェアレートは常に変動するインターバンク市場の概念だからです。しかしそれに極めて近いレートを以下の情報源から知ることができます。
目的別:フェアレートの参照先
1. 【個人投資家向け】リアルタイムの参考レートを知りたい場合
個人投資家が「今の公正な市場価格はいくらだろう?」と確認したい場合、以下のサイトが非常に便利で、無料で利用できます。これらはフェアレートに非常に近い、質の高いデータを提供しています。
- TradingView (トレーディングビュー)
- 最もおすすめです。世界中の多くのトレーダーが利用する高機能なチャートツールです。
- 複数のデータソース(ブローカーや取引所)からの情報を統合した、信頼性の高いレートを表示します。特に「TVC」というシンボル(例: USDJPY.TVC)は、複数のソースを合成した価格で、市場全体の動きを反映しており、フェアレートの代用として非常に優れています。
- 無料でリアルタイムに近いレートを確認できます。
- 使い方: TradingViewのサイトやアプリで、通貨ペア(例: USDJPY)を検索してみてください。
- Investing.com
- こちらも有名な金融情報サイトで、リアルタイムの為替レートチャートを提供しています。
- 多くの情報ソースを元にしており、フェアレートの参考になります。
- スプレッドの狭い大手FX会社のレート
- GMOクリック証券、DMM FX、SBI FXトレードといった、業界最狭水準のスプレッドを提示しているFX会社のレートも、フェアレートに非常に近いです。
- 見方: 表示されている売値(Bid)と買値(Ask)のちょうど真ん中の価格が、市場の仲値(フェアレート)にほぼ等しいと考えてよいでしょう。(例: 売値150.000円、買値150.002円なら、仲値は約150.001円)
2. 【法人・会計向け】会計処理や公的な証明で使いたい場合
企業が会計上の資産評価などで使う「公正なレート」は、リアルタイム性よりも**「公的に認められた基準であること」**が重要になります。
- 主要都市銀行が公表する「公示仲値(TTM)」
- 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行などが、毎営業日の午前10時頃にその日の基準レートとして「TTM(Telegraphic Transfer Middle Rate)」を公表します。
- これは企業の外国為替取引や会計処理の基準として、最も一般的に使われるレートです。
- 各銀行のウェブサイトで確認できます。
- 注意点: これは1日1回更新される固定レートであり、リアルタイムの市場価格(フェアレート)とは異なります。
- OANDA (オアンダ) の為替レートデータ
- OANDAはFXブローカーであると同時に、信頼性の高い為替データをAPIなどで提供しています。
- 彼らのデータは多くのグローバル企業や監査法人、会計ソフト(例: freeeなど)でも利用されており、公的な目的での使用に適しています。過去の特定日時のレートを正確に取得したい場合に非常に有用です。
3. 【プロ・機関投資家向け】最も正確なレートを知りたい場合
金融のプロフェッショナルが利用する情報端末では、インターバンク市場のレートを直接見ることができます。これらが最も厳密な意味でのフェアレートです。
- Refinitiv (リフィニティブ、旧トムソン・ロイター)
- Bloomberg (ブルームバーグ)
これらは専用端末が必要で、利用料は年間数百万円と非常に高額なため、個人での利用は現実的ではありません。
まとめ
目的 | おすすめの参照先 | 特徴 |
個人投資家 (リアルタイム参考) | TradingView、Investing.com、 大手FX会社のレート | 無料で利用可能。 リアルタイム性に優れ、フェアレートに非常に近い。 |
法人・会計 (公的基準) | 主要銀行の公示仲値 (TTM)、OANDAのデータサービス | 公的に認められた基準として利用可能。 TTMは1日1回の固定レート。 |
プロ・機関投資家 (最も正確なレート) | Refinitiv、Bloomberg | インターバンク市場のレートを直接参照。 非常に高価。 |
個人の方が、「今現在のフェアレートは?」と知りたいのであれば、まずはTradingViewをチェックするのが最も手軽で正確な方法と言えるでしょう。
TradingViewの「TVC」シンボルとは?
「TVC」シンボル(例: USDJPY.TVC)とは、一言で言うと、**TradingViewが複数のデータソースを元に独自に算出した「合成為替レート」**のことです。
これは、特定のFX会社(例: OANDA、FXCMなど)が提示するレートではなく、市場全体の平均的な価格を表すように作られています。そのため、前述の**「フェアレート(公正な市場価格)」に極めて近い、信頼性の高い参考レート**と見なされています。
TVCは「TradingView Charts」の略だと考えられており、TradingViewが提供するインデックス(指数)であることを示しています。
TVCシンボルの特徴と計算方法
TVCシンボルがなぜ「フェアレート」に近いのか、その特徴を見ていきましょう。
- 複数ソースからのデータ合成
- TVCレートは、単一のFX会社や銀行のデータだけではなく、複数の信頼できるリクイディティプロバイダー(金融機関に価格を供給する業者)やデータフィードからの価格情報を収集します。
- それらの価格を独自のアルゴリズムで**平均化(または加重平均)**して算出しています。
- ノイズの除去と安定性
- 特定のFX会社で、サーバーの不調や特殊な注文により一時的に価格が飛んだり(スパイク)、スプレッドが異常に開いたりすることがあります。
- TVCは複数の価格を平均化しているため、こうした一社だけの異常値(ノイズ)の影響を受けにくく、より滑らかで安定した価格推移を示します。
- スプレッドを含まない「仲値」に近い
- 通常のFX会社のチャートは、売値(Bid)と買値(Ask)の2つのレートが存在し、その差がスプレッドになります。
- TVCシンボルは、売値と買値の区別がない**「仲値(Mid Price)」**に近い単一の価格です。そのため、チャート上にスプレッドによる上下のブレがなく、ローソク足の形がよりクリーンに見えます。
他のシンボル(例: OANDA, FXCM)との違い
TradingViewで「USDJPY」と検索すると、OANDA、FXCM、SAXOといったブローカー名が付いたシンボルも出てきます。これらとTVCの違いは決定的です。
項目 | TVCシンボル (例: USDJPY.TVC) | ブローカーシンボル (例: USDJPY.OANDA) |
性質 | 参考価格(インデックス) | 取引可能価格(そのブローカーのレート) |
データ元 | 複数ソースの合成・平均 | 単一のブローカー |
スプレッド | ほぼ無い(仲値) | 有り(売値と買値の差) |
主な用途 | 市場全体の分析、公平なテクニカル分析 | 実際の取引、そのブローカーでの戦略検証 |
取引 | 不可能 | 可能(そのブローカーの口座で) |
例えるなら…
- TVCシンボル: 国が行う「国勢調査の平均年収」。日本全体の経済状況を把握するための、客観的で公平なデータ。
- ブローカーシンボル: あなたが勤める「会社の給与明細」。実際にあなたが受け取る、現実の金額。
分析するときは「平均年収(TVC)」のデータで大きな流れを掴み、実際の生活設計は「給与明細(ブローカーレート)」を見て考える、というイメージです。
TVCシンボルの使い方とメリット
では、この取引できないTVCシンボルをどう使うのでしょうか?
- 純粋なテクニカル分析に使う
- 特定のブローカーのクセ(スプレッドの広がりや価格のズレ)に影響されないため、トレンドライン、サポート/レジスタンスラインなどをより客観的に引くことができます。多くのプロトレーダーは、分析をTVCで行い、実際の注文は自分の取引口座で行う、という使い分けをしています。
- フェアレートの確認
- 「今、世界の為替市場の中心価格はいくらだろう?」と思ったときに、TVCシンボルを見るのが最も手軽で正確な方法です。
- 自分の利用するFX会社のレートを評価する
- TVCのチャートと、自分が使っているFX会社のチャートを重ねて表示(比較機能)すると、スプレッドの広さや価格の乖離(どれだけフェアレートから離れているか)を視覚的に確認できます。
まとめ
- TVCシンボルは、TradingViewが提供する**「市場の平均価格」**であり、フェアレートの代わりとして使える非常に便利なツールです。
- 特定のブローカーに依存しないため、客観的で公平な市場分析に最適です。
- 取引はできませんが、為替相場の**「物差し」や「基準点」**として活用することで、より精度の高い分析が可能になります。
TVCシンボルは無料で使える?
TradingViewのTVCシンボルは、無料プランで利用できます。
追加料金や特別な契約は一切必要ありません。
具体的な利用方法
- TradingViewのアカウント作成(無料)
- TradingViewのウェブサイトにアクセスし、メールアドレスなどで無料のアカウントを登録します。
- シンボルの検索
- チャート画面の上部にある検索窓に、見たい通貨ペア(例: USDJPY)を入力します。
- TVCシンボルの選択
- 検索結果のリストに、OANDAやFXCMといったブローカー名と並んで、**「TVC」**と表示されたシンボルが出てきます。これを選択するだけです。
たったこれだけで、誰でも無料でTVCシンボルのチャートを表示し、フェアレートに近い価格を確認したり、テクニカル分析を行ったりすることができます。
無料プランの注意点
TVCシンボル自体は無料ですが、TradingViewの無料プラン(Basic)にはいくつかの機能制限があります。
- 広告の表示: チャートの読み込み時や画面下部に広告が表示されます。
- インジケーターの数: 1つのチャートに表示できるインジケーターは3つまでです。
- チャートレイアウトの保存: 保存できるチャートレイアウトは1つだけです。
- アラートの数: 設定できるアラートの数にも制限があります。
これらの制限はありますが、TVCシンボルを使ってフェアレートを確認したり、基本的なテクニカル分析を行ったりする上では、無料プランで全く問題ありません。
より多くのインジケーターを使いたい、広告を非表示にしたい、といった本格的な利用を考える場合に、有料プラン(Pro, Pro+, Premium)を検討することになります。
まとめ
- 結論: TVCシンボルは完全に無料で使えます。
- 条件: TradingViewの無料アカウントがあればOK。
- 活用法: フェアレートの確認や、客観的なテクニカル分析の基準として、非常に価値の高いツールを無料で利用できると考えてください。